森山's Honey Bucket 37
僕が中3の頃、小豆島の夏合宿はたしか5泊6日だった。
「おかしいなあ…すこし頭が痛いねん。無理かなあ…今日は。」
「遠泳」参加希望者に課せられた「泳力測定」が行われる日の朝、僕は同級生のK君に向かってそんなことをつぶやいた。
「こわくてこわくて、とても遠泳など挑戦する自信がない。」
そう正直に言ってしまえばよいものを、仲の良かったK君に対してまでそんな小細工をしてしまった。
泳力測定からも、もちろん遠泳からも逃げた。
でも、遠泳の隊列を傍から守り応援するボート係り(ボートにはひも付きの浮き輪が2つ3つ積んである)には立候補した。
懸命に泳ぐ仲間を、目と鼻の先ほどの距離から応援し続けた。
いっぱいいっぱい感動した。
しかし感動が大きかった分、友たちの懸命さを目の当たりにした分、
自分の心に引っかかるものが残ってしまった。
こわくて泳げなかったという事実より、むしろそれを友だちに知られるのがいやで卑怯な演技をした自分がうんと小さく思えたのだ。
大学生1回生の冬頃から学園の助手としてお手伝いができることとなった。
2回生の夏、合宿の付き添いとして小豆島に行けたなら、後輩の中3生(25期生)と一緒に遠泳に参加させてもらおう…。自信などないけれど、ただ泳ぎたいと思った。
大学で放課後練習中の水泳部の方に思い切って声を掛けた。
「この夏海で3キロメートルを泳ぎたいので、泳ぎ方を教えてください。」
初対面でのいきなりの申し入れだったのに、その人は時間を割いて「横泳ぎ」を教えてくれた。「疲れたときにこの泳法に変えると楽になるよ。」と。
合宿の夜、ミーティングで「生徒たちと一緒に泳ぎたい。これが初挑戦になります。」とお願いしてみた。
「それじゃあ、遠泳隊の先頭を任せる。速く泳ぐ必要はないが、泳ぎ切らないといけない。大丈夫か?」と如先生がおしゃった。
「はい。がんばります。」
先頭役には動揺したが、今度は逃げずに踏ん張った。
泳ぎ始めた。
泳ぎ続けた。
横泳ぎ、習っていてよかった。
泳ぎ切った。
「遠泳」に参加した…
中3から背負っていた荷物をやっと下ろすことができた。
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