森山’s Honey Bucket  87
 父が亡くなってからというもの、母は父との会話の時間が随分増えたようだ。
 若い頃から亭主関白で、専制君主的だった父に、近年の母はようやく反撃の狼煙を上げていた。
 昔はこんなことを言われたとか、あんなことをされたとか、生前の父は随分恨み節を聞かされていた。
 「ああ、怖い怖い…。そんな昔のことをよー覚えてるなあ…」と父も苦笑していた。
まるで、昨日のことのようだ。
まるで、昨日のことのようだ。
 ところが、このところ、
 「おじいさん、こんなにあっという間に死んでしまうんやったら、意地悪いことなんか言わんといたらよかったね…。」
 「思い返せば思い返すほど、おじいさんの良いところばかりが浮かんくるわ…。」
などと、頻繁に父に語りかけている。
 共に苦労しながら歩んできたので、信頼しきってきたのだなあ…としみじみ感じる。
 そんな母が時おり、
 「おじいさんが、『こっちでは一人で寂しいからお前も早う来い。』って近々に私を誘いに来るような気がする。」とか
 「私の遺影には、どの写真を選んでもらおうかしら…」とか、
 ドキッとするようなことを言う。
 母に元気を出してもらえるよう、できるだけ一緒に居て話をしたり、傍らで作業をしたりする日々だ。
 今日の作業は、大工仕事だった。古い父母家の雨漏りの修繕だ。
 おじいちゃんは、こういう仕事を器用にこなしたなあ…と思いつつ、
天井裏から降り落ちる土埃をかぶりながら、なんとか一歩だけ前進した。
 今年は母の大好きな鈴虫が見事に孵化し、たくさんの幼虫が飛び跳ねている。
鈴虫の世話を一緒にしていたら、
 「おじいさんに、鈴虫の鳴き声しかっり聴かせてあげよう…」と弾んだ声で言っていた。
 家族支えあって元気に行こう!残された5人の約束だ。
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